|
あなたは水を守れますか・・・
~スーパー植物を活かした廃油石鹸の開発と普及~ |
|
宮城県柴田農林高等学校 生物工学班 【柴田郡大河原町/学校】 |
|
|
◆参加人数:12名 |
◆ 活動期間:2006年4月~現在 |
1.はじめに
宮城県南部に位置する大河原町は白石川が街の中心部を流れ、その堤が全国的に有名な「一目千本桜」の観光地である。しかしその景観の一端を担い清流と称えられた白石川もいつしか川底に泥が溜まりだし、ところによって毒ガスが発生し空気までを汚染している。2000年に行われた「阿武隈川サミット」では阿武隈川、そして白石川を含む支流の改善が宣言されたが、先輩達がH.18に行った水質調査結果によれば阿武隈川河口まで水質階級Ⅲ「汚れた水」が続き、5年前と同じ水質が続いている。
主な原因は生活排水だが、合成洗剤使用によるところが大きい。石鹸は自然成分でできているので分解しやすいが、合成洗剤の主成分LASは石油から作られ自然界で極めて分解しにくい特徴をもつ。「つい洗浄力・使い勝手・価格の点でどうしても手がでてしまう」これが地域のアンケートでわかった実状だ。いま地球温暖化が緊急課題だが、今後これにより深刻さはさらに増すと予想される。 先輩達は半永久的に続いてしまう見過ごされがちなこの問題に地域が早く気付き、関心を持つことが、まず必要だと考え、12年前から石鹸利用を訴えたり浄化能力に富む水棲生物を校内繁殖させ川に放流したりしてきた。反面、良いとする石鹸でさえ、皮膚炎などを引き起こすと言われる防腐剤や酸化防止剤がまだ使われている。 そこで今回私達は、「re use&付加価値&広がり」をコンセプトに実際自分達が石鹸を作り普及させる研究に取り組むことにした。
|
2.PARTⅠ 宮城の宝 センダイヨシノを付加 (H18~)
経緯-その1) 宮城県唯一の品種だが激減し幻とさえ言われた桜(センダイヨシノ)を10年がかりで本校先輩が復活に成功させ、町、保護団体、個人が山や庭などに植栽構想を描きながら植えはじめている現在話題の桜である(写真1)。また、本校は全国的に有名なここ大河原町の一目千本桜を83年に渡って管理してきたこともあり桜に対する地域の信頼も厚い。
センダイヨシノを他の桜20種類と比較したところ、抗菌作用が極めて高く、特殊な芳香成分(主成分:ベンズアルデヒド)も検出された。そこでこの桜を「防腐剤」の代用として考えた。
製造に当たっては桜葉に含まれる有用成分を逃がさないよう注意した。例えば、葉の粉末化。ここでは茶の製法をもとにした。また、粉末添加時期についても鹸化の温度を最大60℃に抑えながら工程最後に練りこむことで、アルカリや温度の影響を極力減らした(写真2)。
そして春、毎年にわたって恒例のさくら祭りの会場でその「柴農さくら石鹸」を配ってきたが、反応は良くリピーターも多くなったが、反面、次のような課題も見えてきた。
(課題1)2項目では品質検査に不安。(日本石鹸洗剤工業会指摘に対して)
(課題2)桜は公的な場所に多くあり、石鹸づくりを普及させるのに支障。(学校では季節限定になりがち)
そこで課題解決に向け、~目新しさにはブームがあるが衰退する時期は来る。しかし、新しいものを絶えず発信していくことは意識の持続にもつながる~ ことを信じて次の素材に取り組んだ。
|
(写真1)
(写真2) |
3.PARTⅡ スーパービタミンC植物“刺梨”を付加(H20~)
経緯-その2) 昨年の4月、日中旅遊親善大使で近隣に在住する所有者(歌手・陶芸家 吉川団十郎氏)から「学校で研究してほしい」と依頼があり、中国貴州省原産の野生バラ「刺梨」と出会った。日本にはまだ2か所(宮城県、徳島県)というその目新しさに加え、ほかのバラにはない果実の大きさ、ビタミンCの豊富さに大変興味をひかれた。しかし研究例は中国現地果実を対象としたものでもわずかである。そこで、研究計画を次のようにたて実施した。
1)研究計画 (1)栽培適応性を見る
(2)石鹸用素材として加工法・添加法の研究
(3)品質改善と交流ネットワーク構築に向けて
2)研究活動
(計画1)昨年、学校開発のジャムについて試食を兼ね町のイベントで紹介したところ大きな反響があった。さらに、町主催の春のさくら祭り会場でも種を蒔いて育ててきた苗を配ったところ、桜石鹸同様長蛇の列ができ大変注目される素材であることがわかった。苗配布は500人を超えた。 しかし、標高が1000mを超える原産地に日本の東北地方の気候がいくら似ているとはいえ、栽培に向くかどうかはっきりしなかったので、学校内外に条件を変えた試験区を設け、計4000株について、調査と記録をしていった。 その結果、どこも生育は旺盛でこの9月には良いところの平均草丈が60cmに達し、風通しが悪いところは病気にかかりやすかったが、バラで感染しやすい根頭癌腫病には強く、栽培しやすい植物であることがわかった。
(計画2)石鹸用素材として加工法・添加法の研究
違った気候の日本でも本当に同じ量の成分が存在するのか?ここではそんな疑問からスタートした。ビタミンCの場合、RQフレックスを用いた正確な検査では完熟果実での時期を逃したが、日持ちが悪い果実の今後の活用性を考えて試しに凍結保存してみた。その結果10カ月後に調べたものでは約900mg/100gとなり少なかったが、それでも日本梨の300倍相当を含有した。意外なところでは葉の方にも高いビタミンCを発見した。以上から石鹸添加物として果実と葉に着目し加工法を検討してきたが、どちらも“刺”が問題で試行錯誤を繰り返したが刺を取り除くことは困難だった。
話し合いをした結果、①乾燥、②ふるいがけの手順で微粒粉末にする方法を思いつき、葉は短時間蒸して送風乾燥させる「茶の製法」に習い、果実は「しまねの味開発指導センター公開・ビタミンC残存量を高く保持する柿葉茶の製造方法」を参考に、凍結保存果実を解凍せずにすぐ粉砕して容器に敷き並べ、温風乾燥機で12時間乾燥させる方法で行った結果、ビタミンC損失を35%に抑えることに成功した。さらに、最終の製造段階でも強いアルカリによるビタミンC破壊が心配されたが、PARTⅠ「柴農さくら石鹸」の製造工程に従い工程終わりごろに添加したところ、石鹸1個(100g)当たり11.5mg(梨1個分に相当)と同じ値が検出され、封入に成功した。このことを近くの薬局の店主で薬剤師さんに話を聞いたところ「水溶性なので美肌効果まではないが、洗ううちに中の成分が溶けだし肌の酸化防止になる。廃油石鹸でありがちな油臭さの解消にもなる」と太鼓判を押され自信がついた。このほか石鹸に添加する前のデータだが薄層クロマトグラフィーによる光合成色素抽出や官能検査で、タンニン酸、クロロフィルが確認された。これらには抗菌作用が知られており、防腐剤の代用になると考えられる。
(計画3)品質改善と交流ネットワーク構築に向けて
手作り石鹸が川に及ぼす影響について日本石鹸洗剤工業会が出した指摘文から、支障がないとする県まで評価はまちまちだったため、再度、手作り石鹸の意義を問い直した。そしてこの石鹸づくりは“自然の警告に耳を傾けさせる運動で、地産地消が輸送費の軽減になりそれが地球温暖化にブレーキをかけられる効果もある。さらに強力に進めよう”と結論づけた。
私達はさらに燃え上がり「不安定なら品質を高めよう!」と規格もつくった。そして地域のあちこちで今取り組まれているEM石鹸にも挑戦していると地域団体との交流がスムーズにできるようになり、検査を依頼されるようになった。いまは2項目増やしたpH、COD、ゾウリムシ生存実験、苛性ソーダ残留の有無の4項目について行っている。
また、普及条件の1つ、添加物の中国野生バラ「刺梨」については情報誌「ツーリーバラ通信」に載せ、地域に発信するとともに質問にも応える体制で進んでいる。
|
|
(写真3)
(写真4)
|
4.まとめ
このように地域に素材の栽培と石鹸普及を同時に働き掛けるこの一連のスタイルも、3年目の今年は「柴農さくら石鹸」では計2300人のご家庭に届けることができた。「刺梨石鹸(仮称)」配布ではまだ100人足らずだが、私達が企画して行ってきた石鹸講習会など発信活動が功を奏し、授業への活用、学校行事で刺梨所有者による講演会(写真3)をはじめ、かつてない地域連携(写真4)に前進させることができた。
5.最後に
貴州省の人々は貧困ながら民族としてのプライドが非常に強く金銭・物資の支援よりも産業育成への要求のほうが大きい。中国では年間3000トンが生産され主にリキュールや菓子など食用に利用されているが、“石鹸”という別の視点はない。遠く離れた地よりアイディアの逆発信に努め、貧困にあえぐ人々の支援計画についても現在進行中だ。
今回、この取り組みの中で高齢者から私達、そして子供たちに繋ぐことの大切さを実感できた。石鹸を発見してから約5000年、永きに渡り自然と調和してきたこの石鹸を今後も地域に見直してもらえるよう発信し続け、ひいては地球環境の修復へと繋げていきたい。
|
|