【訪問情報】
■訪問日:2020年7月9日(木)
■訪問先:ハリウ コミュニケーションズ株式会社 菊地淳さん
■訪問者
インタビュアー:MELON情報センター運営部員 増田美鈴
MELON理事 石垣政裕 事務局:山形裕昭
~活版の心を今に~
2020年7月9日に、若林区にある印刷会社ハリウ コミュニケーションズ株式会社にMELONから3名で取材に伺いました。
ハリウ コミュニケーションズ様には、MELONの情報センターでも大変ご協力いただいています。現在の事業活動と今後について、環境面で配慮していることなどを菊地淳専務からお話を伺いました。また、こちらは活版印刷の機械や技術の保全などにも取り組んでおり、現場を見学して、実際に体験してきました。
菊地さんには、活版印刷の歴史に始まり、技術習得時から、全盛期、そして現在の取り組みにいたるまで、大変貴重なエピソードをお話いただきました。
活版印刷のスタート
ハリウ コミュニケーションズ株式会社は、もともと製本会社からスタートして、終戦後1946年に活版印刷(活字を並べて文章にする印刷技術)を導入されました。
「もともとは花京院、現在の東北電力本社ビル西側に木造の工場ありました。当時は、ほとんどがハンドルの前に荷台がある仙台自転車やリヤカーで納品していました。一時期小松島に移転しましたが、その後に先代の社長も中心になって創設に動いていた仙台印刷工業団地ができ、現在の場所に移転しました。写真稙字(写真植字機を用いて文字版などを撮影して、印画紙に焼き付けるもの)と活版印刷を併用して、書籍類は活版、デザイン系は写植で版を作っていまし た」
菊地さんが、入社された次の年に宮城県沖地震が起きたそうです。活字を入れていた棚が倒れ、床に散らばった数十万本以上の活字をスコップですくい、それを一斗缶に入れて溶かしたものは、8トンほどもあったとのことです。その活字を鋳造し、版を組み直し再起されました。地震の発生は地元の印刷業界にとって、大きな転換期だったとのことです。
「その後、プログラミングして印字する機械ができ、やがて電算植字システム(写真植字を自動化したコンピューターシステム)が開発され、ワープロも登場しました。しばらくしてMac(マッキントッシュ)のパソコンが登場して、劇的な変化がありました。1988年にイラストレーターが登場しましたが、日本語書体がドット文字(点の集合体の文字)で使えませんでした。欧文は大丈夫でしたが、漢字がだめでした。その後、多くのメーカーが、デジタルフォントに参入してきました。Macに対応したデジタルフォントなどを改良してオープンにした会社はどんどん伸びていきました」
活版印刷の歴史と『活字』について
活版印刷は、15世紀にヨハネス・グーテンベルグが発明したといわれています。菊地さんに活版印刷の歴史についてお聞きしました。
「活字を使った印刷は元々中国発祥の技術です。それがヨーロッパに伝わり、改良されました。この改良された金属活字のおかげで、大量印刷が可能となり、技術書などが多く作られ産業革命が興りました。羅針盤、火薬なども同じように、東洋で生まれヨーロッパで改良され、大航海時代の元になったといわれています。
現存する最古の印刷物は、奈良時代(770年頃)の日本にある経典「百万塔(ひゃくまんとう)陀羅尼(だらに)」とされています、小さな仏塔100万基の中に経典を収めたもので、東大寺などの仏閣10か所に収められています。現在、4万本程現存しているとされている木版印刷物です。
活字は銅、陶器のものもありますが、グーテンベルグが発明した鋳型に鉛、錫、アンチモン(レアメタルの一種)の合金を流し込む製法が大量印刷に向いていて、細かい字にも対応できて主流となりました」
また現在、ワープロなどの文字のフォントは10.5ポイントが標準となっています。皆さんは、『何故このポイントになのか』と思ったことがありませんか。
「日本の活字の基準寸法だった5号活字(明治の公文書に使われたもの)が現在の10.5ポイントです。小数点以下がポイントに使われているのは、日本だけです。活字は、溶かして再生できますし、その他の材料も再利用されるものがほとんどで、とても無駄の少ない循環型のシステムといえるかもしれません。ひらがなの活字は、『いろは』順にならんでいます。その方が、文字を拾いやすいのです。よく使う漢字は、部首ごとに真ん中程に集まっています。あまり使わないものは外側にあり、PCでいう外字はここからきています」
文書の内容によっても使用頻度の高い活字はかなり違うので会社ごとの活字の並べ方には特徴がありました。会社によってもそれぞれ得意分野の印刷物があり、遠くの地域から注文が舞い込む場合もあったとのことです。
修業時代~コンピューター導入。そして、ふたたび活版印刷
印刷業界で長らく務められてきた菊地さんですが、はじめは特に活版印刷に関心があったわけではなかったとのことです。
「この印刷会社に入社する時に、5年後にコンピューターを導入すると聞いて、とても興味をひかれました。最初は原稿を見ながら活字をさがして、箱に並べていく『文選』と呼ばれる作業から教わりました。文選を通常2、3年習得した後、組版を教わり一人前になるには10年かかるといわれていました。私は文選を工夫して、半年ほどで習得することができました。その後、東京の出版系活版所で修業、プロフェッショナルな仕事に触れ、大いに刺激を受けました。仙台に戻ってきて印刷の部署も経験しましたが、間もなくコンピューターが導入され、新しいコンピューター印刷事業に自ら志願して立ち上げに携わりました。メーカーの方たちと一緒に協力して動きました」
全く活版印刷と違ったコンピューター組版は、なかなか繊細な表現を再現できない状況が続いたとのことです。
「メーカーでもかなり試行錯誤していたようですが、当時は活版組版技術の2、3割程度は再現できませんでした。その状態のソフトウェアがデフォルトとして使われたことで、再現できなかったルールや技術、表現が伝わらずに消えてしまったことが残念です。最近は活版がまた復活してきていますが、すでにほとんどの印刷会社でも活版機材や印刷機は廃棄されていました。私どもでも一部の機材は残し、他は破棄しました。残した機材は、せんだいメディアテークに寄贈して、現在は地下の活版工房に動態展示しています。2001年の開館以来ワークショップなどで活用され、トップデザイナーをはじめ全国から数百人の参加者が訪れ、終了後は皆さん生き生きとして帰っています」
活版印刷には様々な制約もあるが、ものづくりの実感があると語る菊地さん。そして10年前ぐらいから、活版ブームが起きているとのことです。
また、菊地さんは活版印刷研究会を作り、現在10名程所属しているとのことです。そこで後継者を育成されています。
社内でも活版印刷を復活させようという動きがあり、東京の葛飾区から新たに貴重な活版印刷機材を一式取り寄せることができたそうです。
「ライスインキ」の採用~環境にやさしい経営
印刷に使われるインキは、2010年3月から主に宮城県や山形県の学校給食から出る使用済みの米ぬか油を原材料に使った『ライスインキ』を採用されています。
「山形の油脂メーカーで生産し、大手インキメーカーに供給されています。いままでは捨てられていたものを使用し、輸送マイレージもほとんどなく地産地消型のものです。全国に先駆けて採用しました。他に『ベジタブルインキ』という大豆を使ったインキもありますが、こちらには、ほとんどアメリカなどから輸入した大豆油が使われています」
インキメーカーでも、こちらが環境に配慮した経営を行っていることを知っていて、『ベジタブルインキ』や『ライスインキ』が発売された時にすぐにお声がかかったとのことです。
『ライスインキ』を採用している会社はまだ少なく、大手インキメーカーの環境レポートにも取り上げられたとのことです。
ハリウ コミュニケーションズ株式会社では活版印刷の技術を大切に守り続け、現在でも活版印刷を続けています。
そして環境に配慮した素材を採用し、経営をされています。ぜひ、この手作りで無駄のない活版印刷の技術を後世に残していってほしいです。
この大変な時期に取材に応じて下さり、また丁寧に会社に関する事、印刷のことなど幅広く話してくださった菊地さん、そしてハリウ コミュニケーションズ株式会社の皆さま、大変ありがとうございました。これからも地球にやさしい経営をリードしていってください。
【会社概要】
■称 号 ハリウコミュニケーションズ株式会社
■代 表 代表取締役 針生 英一
■印刷物・ホームページ・企画・デザイン・取材・制作・編集、出版、印刷、看板サインの計画・施工、イベント企画・運営、DVD-ROM・CD-ROM制作、サーバーレンタル、映像媒体の企画・制作・編集、学・社教育支援業務
■設 立 1949年2月9日
■所在地 本社/工場 〒984-0011 宮城県仙台市若林区六丁の目西町2番12号
■電話番号 022(288)5011
■FAX番号 022(288)7600
■WEBサイト http://www.zundanet.co.jp