座談会

断熱住宅で体感しながら・・・

断熱住宅で体感しながら・・・

まずは安井さんのご自宅「将監の家」でお話を伺いました。
参加者の皆さんは、家に入るなり「あったかいですね~。」と口々に。

安井さん:

私の自宅は昭和48年(1973)に建てた鉄骨のプレファブ住宅で平成16年(2004)に改修をしました。
改修前の家は自分の家ながら汚かったと思います(笑)。
台所は天井にシミが出来ていましたし、解体してみると27~28年前に増築した書庫はその時は断熱や気密を考えませんでしたので壁下地の通りに結露して、かびが生えていました。
押入れの天井改め口を開けてみると、結露水が乾燥した跡らしきものと鉄骨のさび、壁パネルと壁パネルをつないでいるコネクターもさびていました。

  

そこで、平成16年の改修では高性能フェノールフォームという板状の断熱材厚さ30mmを外壁と屋根面に張る、開口部は空気層12mmの複層ガラスを入れた断熱気密アルミサッシにするなどの断熱改修工事をしました。

私の家では今、冬はエアコン(電気ヒートポンプ式)の設定温度を18℃、寝るときは17~18度にして一切この家を冷やさないようにしています。11月中頃から間欠暖房をし始めて、12月に入ると24時間連続暖房です。昨冬期間は電気代がひと冬平均で一日300円かかりました。夏の冷房期間は82円です。まず外気温が平均で0度くらいだとして暖房には20度ほど温度を上げる必要があります。夏は温度が2~3度下がっただけで、同時に湿度も下がりますから「涼しいな」と感じるんですよね。制御しなければならない温度の差が7倍ですから暖房の方がかなりエネルギーがかかるんです。

あたたかい家のためには断熱だけではなく、換気と気密も重要な要素です。
換気して冷たい外気が給気口から入ってくれば、その近辺にいると寒く感じます。そうならないように外気を直接入れないで、あらかじめ温める工夫をします。このことを「外気調和」といいます。でもそのためにはお金がかかりますので大体の家は外から直接空気が入ってくるタイプのものです。この家も「外気調和」はおこなっていません。

そして気密施工をきちんとしたうえで、必要なところに給気口と排気口を開けて換気ができるようにしたものが断熱気密住宅なんです。「ざる」のように穴だらけだったらどこから空気が入ってどこから出て行くかコントロールできないんです。断熱気密住宅にするということは、「空気の動きをコントロールできる家」にするのが目的なんです。

断熱改修にはサッシだけやってもダメで、全部総合的にやらないとどこからか熱が逃げてしまいます。私の家の複層ガラスは、ガラスの間に空気が入っていますが、鳥山さんのところは空気よりほんのちょっと断熱性能がいいアルゴンガスが入っています。それからガラスの性能も、低放射ガラスというものでうちよりいいです。

これから鳥山さんの家に行きますが、わが家は空気による対流暖房、鳥山さんの家は輻射熱での暖房で、まったく違う方式です。行ってみれば向こうがどれだけ違うかっていうのが絶対わかると思いますよ!

「『将監の家』だって十分あたたかいのに、もっとあたたかい家なんてあるの?」と思いながら向かった先は鳥山米穀店。
延床面積196.69 m2(59.5坪)(店舗部分を含む)の大きな家です。一歩入るとふわっとやさしくあたたかい!

パネルの中には40℃のお湯が流れています。

安井さん:

南面はお店で、居住部分には日射が見込めないですが、それでもあたたかい。暖房はパネルラジエーターの輻射熱で温める方式です。エアコンで暖房するのと同じ方式で熱を生み出し、その熱で不凍液をあたためます。約40度に設定した不凍液が床下に配管したパイプを通って家の中にあるパネルに流れます。2階には暖房パネルを設置していません。夏の冷房は2階に取り付けたルームエアコン1台だけで全館を冷やしています。
建築当初のお座敷の天井は取り外さずに工事をしました。
ですからこの天井裏には断熱材は一切入っていません。断熱は天井裏ではなく、屋根で行っています。壁は外部に断熱材を張り付け、床下も屋内空間に取り込み地盤で断熱しています。
床下の温水配管で、普通ならロスになる熱を使って床下もあっためています。外からの新鮮空気は床下に導かれ、暖房配管の熱であっためられて、床に作ったスリットやコンセントなどの隙間から室内に入ってきます。これを外気調和と呼んでいます。換気をしても「すきま風?」っていう私の家で感じたようなことはないですよね。排気はお便所の換気扇で24時間しているので、あったかい空気がお便所をついでにあっためながら外に出て行くんです。ご覧の通り暖房機はお便所にはありませんがあったかですよ。

足元もひんやりしません

室内の温度を測ってみると天井部分は19.8℃、床は19.2℃。差は0.6℃しかないですね。私のところは2℃くらいあったから、私の家とえらい違いだっていうのを分かっていただけると思います(笑)。

鳥山さんの家は、修復前は暖房していたのは台所と居間だけで、38.2m2だったのが今は196.7m2で床面積だけでも5倍。ただし、普通の家よりも天井が高いので、暖房する容積としてみるととっても大きいですよね。
修復前は室内の温度が外気温にあわせて上下しましたが、修復後は外気温度にほとんど影響されず、20度ほどでほとんど変化がありません。修復前は暖房している部屋としていない部屋間の温度差は10℃にもなっていました。暖房している室内の5cmの高さのところと1.1mの高さのところの温度を測ってみると、差が6℃になることもある状態でしたが、修復したら1℃以下になりました。

そして修復前と後のエネルギーを比べると最終エネルギー消費量は、修復後は36%も下がっています。暖房面積が5倍にもなっているのにですよ。衝撃的ですよね。

天井と床の温度を計測しました

天井と床の温度を計測しました

私の家は建築後40年、こちらは137年なのに古いほうがちゃんとなっているのは、ちゃんとした設計、施工をしたから(笑)。将監の家は負け惜しみですけど、予算に合わせて、これを手抜きした時にはどれくらいひどくなるかとか実験したようなものです。勉強にはなりましたが私はいつも不満ですけどね(笑)。

見学の後は座談会です。参加者の皆さんが感じたこと、疑問に思っていることを安井さんに伺いました。

川村さん:
断熱改修を自宅でしようとした時に、やはり家全体に断熱を入れないと効果はないのですか?例えば居間だけとか・・・。
安井さん:

どうしても全部できないからこの部屋とお台所だけお願いしますっていうのもありますね。すると断熱をした部分は、少なくとも私の家ぐらいのレベルになって、断熱をしていない部屋はドアを開けて出ると寒いんですよね。すると「安井さん、宝くじがあたったら全部断熱するからね」っていう会話が必ずあります(笑)。だからできないことではないですよ。その場合は我が家のように床の上に断熱して、壁に断熱をして内側からくるむっていう方法があります。でもやっぱり全部断熱をしたほうがこれからの高齢化社会、楽に年を重ねられると思いますね。

澤田裕子さん:

家によって違うと思うんですが、断熱改修リフォームには予算はどれくらいを考えればいいですか?

安井さん:

例えば私の家は、断熱気密してそんなに贅沢言わなければ施工延べ面積92.4m2で800万円ほどでした(※)。予算に応じて・・・といっても、やはり難しい部分もあって、かかるものはかかりますね。

荒井さん:

最初から考えて家を建てた方が割安ですか?

安井さん:

そうですね。あとからだとサッシを取り外したり、外したものを捨てたりするにもお金がかかりますし。リフォームしても断熱材は最終的に、見えない部分に施工されるので楽しくはないんですよ、見た目は(笑)。そうするとお台所、お便所、お風呂とかそういう要求や希望があった時にじゃあどれを最優先にするか?「冷房か暖房か断熱か、流し台か?」っていう決断ですよね。

川村さん:

断熱材は最低どれくらい入れなきゃっていうのはあるんですか?

安井さん:

例えばグラスウールなら100mmぴしっと入っていても気密が確保されていないと断熱効果が発揮されません。風の吹いているスキー場にいて、風を通さないスキーウェアを着ないで「厚い高級セーターです!」と言ってるようなもの。風があればセーターだけでは寒いですよね。だから断熱材をただ入れるだけではなく、気密を高めないといけないんです。

スタッフ:

断熱材は何年くらい持ちますか?

安井さん:

全てのものは劣化しますよね。断熱材も少しずつ断熱効果は下がります。でも、断熱材の中には25年くらいは当初の性能を維持できるといわれているものもあります。その後はやり直しをするか、付加断熱をする方法があります。30年後はもっといい断熱材ができているかもしれませんね。

荒井さん:

今日はエアコンをつけっぱなしっていうのは意外だったんですが、それは断熱気密住宅っていう前提だから・・・?

安井さん:

前提だからです。でないと電気代で恐ろしいことになります。

川村さん:

内窓をしただけでも効果はありますか?

安井さん:

あります。平らな天井なら板状の断熱材を貼るだけでも効果を期待できます。内窓をつけるともらえるエコポイントも普及になっていると思いますよ。シングルガラスではちょっと効果が少ないので、内窓にもペアガラスを入れるとだいぶ効果がありますね。他のところがスースーするようでは十分ではないですが。でもやらないよりはましですね。

※この工事費は①断熱材や気密シート、換気扇などの断熱気密補強、計画換気に直接関係する工事、②断熱材施工のための仕上げ材解体などの設計や工事の都合上施工せざるを得ない工事、③トイレや風呂の快適性を増すなど家を長く使い続けていくために必要な工事、④長く使い続けるために、大改造をする際についでに行えば安くできる工事の費用を含みます。

澤田敏翁さん:

なかなか家全体という観点では考えたことがなくて、どう暮らすかっていうことで話すことが多いんですがその中でも今出来ることは何かないか、みんなに伝えることができないかと少し考えて広めていきたいですね。

澤田裕子さん:

初めてこういう断熱材を使ってうちと違って暖かくていいなぁと思いました。予算の面もあるので、手近にできることから少しずつ進めていきたいなと思ってます。

荒井さん:

私は栗原に住んでいて毎日寒い思いをしていて、部屋の中が結露というかもう凍っているようなところですが、そういったわけで今日のことは非常に勉強になりました、将来家を建てるときに参考にしたいです。

川村さん:

今年度ウチエコ診断員というものをやって、内窓のお話とか、おうちをどういうふうにしたら快適に過ごせてCO2を減らせるかなっていうお話をさせていただいてました。それで24年度もそういう活動をしていきたいので、その時に参考にしたいです。

菅原さん:

僕の家も寒くて、うちは築200年くらい建っている。断熱を実感できるモデルハウスのようなものがあるといいですね。

安井さん:

私は断熱に関する教育はすごく大切だと思っているんです。自分の考え方を広めていきたいですし、それを分からせるのが私たち専門家の義務じゃないかと思います。でないとやたらお金を出して寒い家を買っている人がたくさんいるんです。それってもったいないですよね。

澤田敏翁さん:

きっと住んでいる人は今の家が一番いい、もしくは寒くてもこれが普通だと思って暮らしている人が多いと思う。私なんかもそうで、今日見てすごいなと思いました。だから、あたたかい家のこと、断熱のことを知らない方がすごく多いんじゃないかなと思います。

安井さん:

今日は鰻丼でいう松竹梅の「松」の断熱の家(鳥山米穀店)と「梅」の断熱の家(将監の家)を見ました(笑)。

澤田敏翁さん:

うちは梅以下ですから(笑)。

「断熱住宅のこと、もっと知りたい!」という方は、以下のウェブサイトから資料をダウンロードすることができますので是非ご覧ください!

 

☆「将監の家」について掲載されています
長寿命省エネ住宅への道

      

☆安井さんが手がけた古民家修復の事例です
長寿命住宅遊佐家三百年の風格
長寿命住宅小野寺家100年の大空間

これらは「環境省が平成17年度及び平成18年度主体間連携モデル事業委託業務」の講習会テキストとして「住まいと環境東北フォーラム」が作成したものです。